広島地方裁判所 昭和47年(行ウ)39号 判決
広島市千田町一丁目四番一五号
原告
有限会社 中道不動産
右代表者取締役
中道秋夫
右訴訟代理人弁護士
橋本保雄
広島市加古町九番一号
被告
広島西税務署長
内藤治徳
右指定代理人
有吉一郎
右同
山根裕之
右同
広光喜久蔵
右同
小川儀一
右同
藤井哲男
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対してなした左記各処分を取消す。
(一) 昭和四六年一月一九日付原告の昭和四四年度分(同年一月一日から同年一二月三一日まで)の法人税についての再々更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(但し、審査裁決によって取消された部分を除く)。
(二) 昭和四七年一〇月三一日付昭和四四年一二月分の源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 請求の趣旨1(一)の処分について
(一) 被告は原告に対し、昭和四六年一月一九日付で原告の昭和四四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という)分の法人税額を金六一二万七〇〇〇円、過少申告加算税を金二万五八〇〇円とする旨の再々更正処分、賦課決定処分(以下「(一)の処分」という)をした。
(二) しかしながら、右(一)の処分は、次のような手続的に違法な再更正処分を前提とするものであるから、違法な先行処分に基づく後行処分として同じく違法である。
(1) 原告は、本件事業年度分の法人税について昭和四五年二月二八日確定申告をしたが、被告は同年六月三〇日法人税額を金六一〇万六四〇〇円、過少申告加算税を金二万四八〇〇円とする旨の増額更正処分、賦課決定処分(以下「当初更正処分」という)をした。原告は右当初更生処分について不服であり、国税不服審判所長に審査請求をしていたところ、審査中の昭和四六年一月一六日に被告は右更正処分には更正理由の附記に一部記入もれがあったとして、その処分を全部取消す旨の再更正処分(以下「再更正処分」という)を行なった。
ところで、国税通則法には「課税標準等又は税額等が過大又は過少であることを知ったときは、当該更正又は決定に係る課税標準等又は税額等を更正する。」旨の規定(同法二六条)があるのみであり、同法や法人税法には前記のごとき一部記入もれがあったことを理由として再更正処分ができる旨の規定はないから、本件再更正処分は根拠規定を欠く違法なものである。
(2) 原告は当初更正処分に対して右審査請求に先立ち異議の申立をしていたが、同異議申立に対しては、被告は原処分を相当として棄却した。しかるに、被告はその後原処分が相当でないとして、右異議棄却決定を取消すことなくその法効果を存置したままで、原処分の減額(取消)の再更正処分という反対の行政処分をなしたものであって、これは両者の矛盾であり、このような本件再更正処分は違法である。
(3) 原告は再更正処分についても被告に対して異議申立をしたが、当時当初更正処分についてはなお国税不服審判所で審理中であったのであるから、被告は、国税通則法九〇条一項により異議申立書を国税不服審判所長に送付し、みなし審査請求として取扱うべきであったのにこれを怠っており、このような誤った手続によりなされた右異議決定は違法無効である。
また、右異議決定は、その決定書において審査請求についての教示が削除されているから、国税通則法八四条六項に違反し、この点からも右意議決定は無効である。
したがって、無効な意議決定により正当化された本件再更正処分も違法である。
(4) 原告は当初更正処分について、その処分に対する意議決定の教示に従って国税不服審判所長に対し審査請求をしていたのであるが、これに対しては、前記のとおり被告の再更正処分によって当初更正処分が全部取消されたため、結局原告に不利益はないとして右審査請求を却下された。
原告は、当初更正処分が取消されたので被告は原告の申告どおりに法人税額を認めたものと思っていたところ、右取消のあった同月一九日付で当初更正額を上廻る本件再々更正処分((一)の処分)を受けたため、再度本件(一)の処分についても異議申立をし、更に国税不服審判所長に対し審査請求もせざるを得ない状態となった。なお、事案の内容は前回の審査請求の場合とほとんど変化がないものである。
右は、被告が精精当初更正処分の訂正をなせば足る事案につき、当初更正処分の審査請求を不適法にしてまであえて本件再更正処分をしたものであり、すなわち、原告が当初更正処分についてすでに審査請求中であるのに、当初更正処分とほぼ同一内容の(一)の処分を行なうため、審査請求の基礎を失わしめるような再更正処分をわざわざ行ったこととなり、原告に余計な手数をかけさせるだけであって、信義則にも反し、権利の濫用というべきである。
(三) 仮に右主張が認められないとしても、(一)の処分には次のような実体的な違法がある。
(1) 原告は、昭和四一年一二月三一日原告会社の取締役中道秋夫(以下「中道」という)から、同人所有の訴外瀬戸内養魚観光株式会社(以下「訴外養魚会社」という)の株式(以下「出資金」という)額面金一二五万円及び同社に対する貸付債権(以下「貸付金」という)金一五〇万円の譲渡を受け、且つ右会社が呉相互銀行から借りた金員につき中道個人が保証していた保証債務(以下「保証債務」という)の履行引受をした。
(2) 原告は、昭和四四年三月二七日呉相互銀行に対し右保証債務の履行として金一一一万〇六〇〇円を支払ったが、訴外養魚会社は経営不振であり、求債権の行使はできず貸倒れとなった。そこで、原告は保証債務の履行引受人として支払貸倒れとなった右金員を法人所得の計算に際して損金として計上したところ、被告は、右保証債務の履行引受及び支払は同族会社においてのみなされうる不合理な行為であるとして、貸倒損金としては認めず、(一)の処分をした。
(3) しかし、原告は貸付金及び出資金を中道から譲渡を受けるとともに同人の保証債務についてその履行引受をしたものであり、また同引受の当時、訴外養魚会社の不振は予測されていなかったのであるから、被告主張のような不合理な取引ではなかった。また法人税の負担を不当に減少させることを意図してなしたものでもない。
したがって、被告のなした(一)の処分は事実認定を誤った違法がある。
(4) 仮に保証債務の履行引受により、その履行を余儀なくされ、かつ求債権の行使ができなくなることが引受時に予測可能であって、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるとしても、そうであれば、右引受時を含む事業年度(昭和四一年度)について、右行為が法人税法一三二条に該当するものとしてこれを否認し更正処分をなすべきであったのに被告はこれをなさず、本件事業年度について否認したのは違法である。
(四) 原告は、(一)の処分を不服として昭和四六年二月六日被告に対して意議申立をしたが、同年三月一三日棄却され、次いで、同年四月六日国税不服裁判所長に対し審査請求をしたが、同所長は昭和四七年一〇月四日法人税額を金五九四万〇二〇〇円、過少申告加算税を金一万六五〇〇円と裁決し、(一)の処分の一部を取消した。
(五) しかしながら、原告はなお不服であるから(一)の処分の取消を求めて本訴に及んだ。
2 請求の趣旨1、(二)の処分について
(一) 被告は原告に対し、昭和四七年一〇月三一日付で昭和四四年一二月分の源泉所得税として金二七万五〇〇〇円の納税告知処分及び金二万七五〇〇円の不納付加算税の賦課決定処分(以下(二)の処分という)を行なった。
(二) 被告は、原告が昭和四四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度において損金として計上した訴外養魚会社に対する前記貸倒損金一一一万〇六〇〇円を否認し、右貸倒損金に相当する金額は、原告代表者中道に対する「賞与」と認定して(二)の処分を行った。
しかしながら、前記1、(三)、(3)記載のとおり右貸倒損金の否認は事実を誤認した違法なものである。
仮に右主張が認められないとしても、その課税時期は前記保証債務の履行引受がなされた昭和四一年一二月と解すべきであり、昭和四四年一二月を課税時期とした(二)の処分は違法である。
なお、法人税法三五条四項括弧書「経済的利益」の適用は法人が賞与として支給する意思がある場合に限って適用さるべきである。
(三) 原告は、被告の右処分を不服として昭和四七年一二月四日被告に対して異議申立をしたが、昭和四八年一月二九日棄却され、更に同年二月九日国税不服審判所長に審査請求をしたところ、同年八月二日棄却された。
(四) よって、原告は(二)の処分の取消を求めるため本訴に及んだ。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1につき、その(一)は認める。同(二)の(1)及び(4)の事実はいずれも認めるが、同(二)の主張はいずれも争う。同(三)の(1)及び(2)の事実はいずれも認めるが(但し、保証債務の履行引受とある点は保証債務の引受である)、同(三)の(3)・(4)は争う。同(四)の事実は認める。
2 請求原因2につき、その(一)は認める。同(二)のうち、原告主張のとおり賞与と認定して(二)の処分をした事実は認めるが、その余は争う。同(三)の事実は認める(但し、異議申立をしたのは昭和四七年一一月二五日である)。
三 被告の主張
1 本件(一)の処分について
(一) 原告に対する本件(一)の処分についての計算内容は別表(一)記載のとおりである。
(二) (再更正処分の適法性)
原告は法人税法一二一条に規定する青色申告書の提出を承認された法人であるところ、被告がなした再更正処分は、本件当初更正処分につきその更正理由の附記に不備があったことを発見したため、これを補充訂正すべく、(一)の処分(再々更正処分等)を行なう前提手続として、未だ当初更正処分もなされていない状態に復するため再更正処分という形式で当初更正処分を取消したものにすぎず、本件再更正処分は実質的には当初更正処分の取消処分であり、当初更正処分の理由不備を補完する再々更正処分をなす必要上その前提として右のような取消処分をなすことも当然許されるものと解すべきで、たとえ当初更正処分の審査請求中であっても、これをもって権利濫用などということはできない。
(三) (貸倒損金否認の適法性)
(1) 原告は不動産仲介業を営む会社であり、出資者は原告代表者中道(出資額金四八〇万円)及び同人の妻(同金二〇万円)二名の純然たる同族会社である。
(2) 原告と中道は、昭和四一年一二月三一日前記のごとく出資金及び貸付金の譲渡並びに保証債務引受を内容とする契約を締結した。
しかしながら、出資金及び貸付金合計金二七五万円は、現実には、現金での決済はされていないが、原告が中道から同額の金員を借入れたものとされているのであって、したがって、原告の中道との取引は、形式上は中道から原告が譲り受けた出資金、貸付金の対価として原告が中道の保証債務を引受けたようになっているが、実質上は「(イ)原告は中道から貸付金、出資金を譲り受けるが、その対価は同額の借入金とする。(ロ)中道の保証債務を原告が無償で肩代りする。」という二つの内容からなるものである。
(3) 原告は昭和四四年三月二七日呉相互銀行に対し引受けた保証債務の履行として金一一一万〇六〇〇円を支払った。そして、同年一二月三一日右保証債務については求債権の行使ができず回収不能になったとして貸倒損金として帳簿上処理した。
(4) しかしながら、主たる債務者である訴外養魚会社は設立第一期の昭和四〇年五月一〇日から昭和四一年四月三〇日までの事業年度において資本金五〇〇万円の約九〇パーセントに相当する四四六万七五八八円もの欠損金を計上しており、本件引受契約時たる昭和四一年一二月三一日の現況においても事業経営が困難かつ不安定であったこと、同社は漁業所得者であって経済的危険性もあり所得の変動も大きいことなど考えると、引受の時点で原告には保証債務の履行を余儀なくされること及び求償権の行使ができなくなることの予測が十分できた。そして、右引受がなかったならば、中道個人が右保証債務を履行し、その求償権行使の不能についての負担を自ら負うべきであったにもかかわらず、原告が右引受をしたために同人は右負担を免れることになったのであるから、前記金一一一万〇六〇〇円は、原告の原告代表者中道に対する法人税法三五条四項括弧書にいう「経済的な利益」の供与であって、これは臨時的な給与すなわち賞与の支給と認められるので、同条一項により原告の所得の金額の計算にあたってこれを損金の額に算入することは認められない。
(5) 仮に右主張が認められないとしても、右保証債務を無償で肩代りするという原告の取引は、通常の経済人としては首肯できず、原告が中道の同族会社であるからこそ行ない得たものである。そして、右貸倒れを損金として計上することを認めると原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となるので、被告は法人税法一三二条一項一号の規定(同族会社の行為又は計算の否認)を適用して、原告の求償債権の貸倒損金計上を否認し、原告代表者中道に対する賞与と認定した。
なお、本件契約締結時である昭和四一年一二月三一日の時点では、主たる債務者である訴外養魚会社のその後の履行如何により原告の保証人としての責任の範囲が変動するので、右時点においては貸倒金すなわち中道が受ける経済的利益も確定し得ないから、右時点の事業年度(昭和四一年度)ではなく、右確定した時点といえる貸倒損金として帳簿上処理した昭和四四年度において右貸倒損金計上の行為を否認し、賞与と認定したもので、被告の(一)の処分は正当である。
2 本件(二)の処分について
(一) 税額計算の内容及び計算過程は別表(二)記載のとおりである。
(二) 前記貸倒金一一一万〇六〇〇円は前記三、1、(三)記載のとおり、原告の中道に対する賞与というべきである。そして、原告は昭和四四年一二月三一日求償権を放棄する旨の意思表示をしたのでこれにより中道が受ける経済的利益が確定した。そこで、被告は同日を右賞与の支払期として昭和四七年一〇月三一日原告に対し納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をなしたものである。
なお、本件保証債務の無償引受によって、求償権行使不能による損失の負担者が中道個人から原告に移っているのであり、この点で中道は経済的利益を得たといいうるし、また、「賞与」と認定するのに会社が取締役に賞与として支給する意思は必要ではなく、仮に必要だとしても、本件の場合は右意思が認められるから、右金員を賞与と認定する妨げとはならない。
四 被告の主張に対する反論
1 被告の主張1について
(一) 同(一)のうち貸倒損金の関係は否認する。同(三)、(1)のうち出資者及び出資額は認める。その余の主張は争う。
(二) 同(三)の主張につき、原告は昭和四一年一二月三一日当時訴外養魚会社が倒産することは予測していなかった。訴外会社を設立した当時は国も養殖、養魚業を奨励しており、養魚は有望な事業と考えられていた。また養殖される魚は一年では育成されないから、初年度は多大の経費がかかり売上はなく、赤字となるのは当然である。同会社が倒産したのは工場排水や海面埋立等による急速な海水の汚染のため魚が死んだためである。
ところで、被告は、本件保証債務の履行引受と同時になした貸付金一五〇万円の譲り受けについても当初損金算入を否認していたが、同異議申立につき、右肩代りの時点においては貸付金は不良債権ではなかった旨の原告の主張を容れて原処分を取消している。貸付金と保証債務の処理を別異にすべき理由はない。
更に、被告は昭和四一年一二月三一日の保証債務の履行引受契約自体を法人税法一三二条によって否認しているのではないから、右契約の結果にすぎない保証債務の履行及び求償権行使不能について同損金計上を否認することはできない。
2 被告の主張2について
同(一)の計算の方法は認める。しかし、原告が貸倒損金としたことによって利益を受けたのは訴外養魚会社であって中道ではない。
第三証拠関係
一 原告
1 甲第一ないし第三号証
2 証人正木質、同田妻喜代人、同秋本勉、原告代表者本人
3 乙号各証の成立はいずれも認める(乙第一号証については原本の存在についても認める)。
二 被告
1 乙第一、第二号証、乙第三号証の一、二、乙第四号証の一ないし四、乙第五号証の一、二、乙第六号証の一ないし三、乙第七号証の一ないし四、乙第八号証の一ないし四、乙第九号証の一ないし四、乙第一〇ないし第一三号証、乙第一四号証の一ないし四、乙第一五、第一六号証
2 甲号各証の成立はいずれも認める。
理由
第一本件(一)の処分について
一 原告は、昭和四四年の本件事業年度分法人税について昭和四五年二月二八日青色申告書による確定申告をなしたところ、被告は同年六月三〇日付で所得金額を増額する旨の当初更正処分(第一次更正処分)をなしたこと、そこで、原告は右第一次更正処分について異議申立の後さらに国税不服審判所長に対し審査請求をしていたところ、同審査中、被告は昭和四六年一月一六日付で右第一次更正処分にはその更正通知書の更正理由附記に不備があるとしてこれを全部取消す旨の再更正処分(第二次更正処分)をなしたこと、そのため、右審査請求は同年二月四日原告に不利益はないとして却下されたが他方、被告は同年一月一九日付で再び申告所得金額を増額する旨の再々更正処分(本件(一)の処分、第三次更正処分)をしたこと、そこで、原告は第三次更正処分についても異議申立をなし、さらに審査請求をなしたが、一部取消の裁決がなされたことは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第三号証及び弁論の全趣旨によると、右各処分の経過及びその内容は、別表(三)記載のとおりであることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
二 原告は、第三次更正処分(本件(一)の処分)は、手続的に違法に第二次更正処分(再更正処分)を前提とするもので、その後行処分として同じく違法である旨種々主張しているので以下検討する。
1 請求原因1(二)(1)につき
前記当事者間に争いのない事実及び成立に争いのない甲第三号証、弁論の全趣旨によると、被告は別表(三)〈1〉〈2〉記載のとおり原告の確定申告に対し本件貸倒損金計上の否認を含む所得金額増額の第一次更正処分をなしたところ、原告はこれに異議申立をなし、被告において異議棄却決定をなしたが、さらに原告がその審査請求中、被告は青色申告書に係る本件第一次更正処分の更正通知書に更正理由附記の不備があることを認めたため、この不備を補充訂正する方法として、まず昭和四六年一月一六日再更正処分という形式を用い(更正通知書を利用して)一旦第一次更正処分を全部取消す旨の第二次更正処分をなしたうえ、三日後の同月一九日第一次更正処分における所得金額を差引でごく若干上廻る(原告の昭和四三事業年度分の法人税額等の更正処分が異議申立により昭和四五年一〇月三〇日全部取消されたことによるもので、別表(三)67の関係)所得金額での、当初申告額増額の第三次更正処分をなし、第一次更正処分における更正理由附記の不備を補完したものである事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
右事実からすると、第二次更正処分は、実質的には第一次更正処分における手続的な瑕疵(不備)を是正するための前提としての同取消処分にすぎず、つまり、率直に言って第一次更正処分をやり直す前提措置であって、それ自体は、更正等をした「課税標準等又は税額等が過大又は過少であることを知ったとき」になされる再更正処分(国税通則法二六条)ではないといえる。そうすると、たしかに法律上右のごとき取消処分をなし得るとする直接の根拠規定はないこととなる。
しかし、課税上、手続的にもせよ瑕疵のある行政処分の存在を認めた場合、他に格別の規定もない限りこれを当該処分庁自らにおいて取消是正できないとすることは、少なくともその結果が被処分者になんらの不利益を生ぜしめるものでもない以上、その理由を見出しがたいものといえる。そして、一般に、課税上決定(同法二五条)又は更正(同二四条)に手続的あるいは実体的誤りがある場合にこれを是正する方法としては同処分の効力を前提にこれをさらに更正するという方法(同法二六条)と、一旦右処分を取消して再度やり直すという方法とが考えられるが、更正は所定の期期内に(同法七〇条)である限り、特に更正権の濫用とみられるような場合の外、一般には何度でも可能な訳で、本件の場合、更正処分がなお可能な状態にある限り、これをやり直す前提として当初の更正処分を一旦取消す処分をなすことも、右更正権と一体をなすものとして当然可能なものといわなければならないし、他にこれを否定すべき理由もないといえる。特に本件のごとき場合は、当初の第一次更正処分の効力を前提とした是正(補充訂正)はむしろ妥当でないとみられるのであって、これを一旦取消してやり直すのが相当であったといえる。そしてなお、右のごとき取消処分の方式についても法律上なんらの定めがないのであって、再更正処分という形式でやったとしても、特に違法視する程のこともみられない。
したがって、第二次処分(再更正処分)が、その根拠規定を欠き違法である旨の主張は理由がない。
2 (請求原因1、(二)、(2)につき)
別表(三)記載のとおり、第一次更正処分に対しては原告から異議申立がなされ、同異議は被告において昭和四五年一〇月三〇日棄却する旨の決定をしているが、これは、その時点において原処分の効力を維持すべきものとしたにすぎず、そのためにその後の前記原処分の取消処分(第二次更正処分)ができないとするいわれはなく、又右取消のため右異議棄却決定まで取消さなければならないものでもない。
右の点の原告の主張も理由がない。
3 (請求原因1、(二)、(3)について)
仮に原告主張のとおり第二次更正処分(再更正処分)についての異議(却下)決定に違法があり無効であるとしても、その主張するところの違法事由は右異議決定手続における固有の瑕疵であるから、このために原処分たる第二次更正処分が当然に違法となるものではない。
したがって、原告の右主張は主張自体理由がない。
4 (請求原因1、(二)、(4)について)
前記(1)のとおり、処分庁自身において第二次更正処分(再更正処分)のごとく瑕疵ある行政処分を取消す処分をなし得るものというべきであるが、このことは、当該処分が現に審査請求で裁決庁に係属中の場合でも、原処分庁において同様取消処分をなし得るものと解すべきである。この場合、裁決庁において取消す(同取消後原処分庁においてやり直す)ことも考えられるが、このことのため原処分庁においては右取消ができないとすべき程の理由ともいえず、むしろ、本来の処分庁たる原処分庁においてできるだけ早期に取消是正するのが相当なものといえる。
なるほど、別表(三)記載のとおり、被告が第二次更正(取消)処分をなしたため、第一次更正処分に対する審査請求はその利益がないものとして却下され、そのため、原告としては右第二次更正処分後間もなくなされた第三次更正処分に対しても重ねて異議申立、審査請求をせざるを得ない結果となり、余計な手数を要したこともうかがわれる。
しかし、被告が第二次更正処分(再更正処分)をなすに至った前記経過、諸事情に照らすと、同処分自体にはそれだけの相当な理由があるのであって、それと一体的にその後になされた第三次更正処分(再々更正処分)も含め特に信義則違反、権利濫用ともいえず、他に右権利濫用等をうかがわせる事実は証拠上なんら認められないところである。
したがって、原告の右主張も理由がない。
以上検討してきたところから明らかなように、結局、第二次更正処分(本件再更正処分)にはなんら手続的に違法は存しないから、その違法を前提としてのその後行処分たる第三次更正処分(本件(一)の処分)も手続的に違法であるとの主張は、さらにその余の点につき判断するまでもなく理由がないこととなる。
三 原告は、被告が昭和四四事業年度分法人税の所得金額の計算上貸倒れ損金の計上を否認して賞与と認め申告所得金額に加算した点について、実体的にも違法がある旨主張しているので以下検討する。
1 原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証、成立に争いのない甲第三号証、乙第三号証の一、二、乙第四号証の一ないし四、乙第五号証の一、二、乙第六号証の一ないし三、原告代表者本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、原告は昭和四一年一二月三一日原告代表者中道から中道の訴外養魚会社に対する出資金(瀬戸内養魚観光株式会社株式額面金一二五万円)及び貸付金(一五〇万円)を譲受けその代価の支払いは現金に替えて同日原告の中道に対する右同額の借入金とし、そして、同日右の外、原告はさらに中道から中道が訴外養魚会社の呉相互銀行に対する債務につき個人保証していた保証債務を引受けていたものであるところ、訴外養魚会社の経営不振のため原告は昭和四三年一二月三一日付右貸付金一五〇万円を雑損(回収不能による債権放棄)として処理し、次いで、右引受けた保証債務についても、原告において昭和四四年三月二七日債権者呉相互銀行に対し同債務金一一一万〇、六〇〇円の代払いをするに至って、一応仮払金勘定で処理した後、同年一二月三一日原告は右代払による仮払金につき債務者訴外養魚会社に対する求償債権の回収も不能であるとして貸倒損金で処理するに至ったことを認めることができ他に右認定を左右するに足る証拠はない。そして、右貸倒損金としての処理につき、被告はこれを否認して右は原告代表者中道に対する賞与であると認定し、右代払金を原告の昭和四四本件事業年度分の申告所得金額に加算し、本件第一次更正処分(当初更正処分)及びその後の本件(一)の処分をなすに至ったものであることは当事者間に争いのないところである。
2 ところで、右認定事実等からすると、原告は中道から、その出資金、貸付金の譲受とは全く別個に、つまり、右とはなんら対価関係なく無償で訴外養魚会社の保証債務を引受けた(この点は、たしかに原告と中道間の合意であって保証債務自体が免責的に移転するものでもないから、原告が右保証債務の究極的履行を引受けた趣旨ともいえる)ものと認められる。
そこで、一般に、右のごとく他人の保証債務を引受けた場合、その後その保証債務の履行を余儀なくされかつ主債務者が無資力で求償権の行使も不能となったときには、その経済的利益を享受するのは主債務者であって、保証人ではないといえる。したがって、本件の場合についていえば通常は、原告が保証債務を代払いして求償債権が貸倒れ(債権放棄、債務免除等で処理される)となったときにその経済的利益を享受するのは、主債務者たる訴外養魚会社であって(この場合、訴外養魚会社との関係では贈与益の問題を生ずることがあり得る)、中道ではないといえる。
しかしながら、本件の場合、もし中道の保証債務につき原告が同保証債務を引受けた当時においてすでに保証債務の履行を余儀なくされかつ訴外養魚会社に対する求償債権の行使も同訴外会社の無資力のため不能もしくは著しく困難となる危険が客観的に予測されるような状況にあたったとしたら、右中道の保証債務も経済的には主債務者の債務とほぼ同等の意義を有するものとみられ、かかる状況下での原告の保証債務の引受けは、対価の支払等格別の事情も証拠上うかがえない本件においては、経済的には中道に対する前記代払金相当額の経済的利益の付与であるとみられるのであって、後記のとおりその確定した段階で本件の場合は中道への賞与として課税上処理されることとなるものといわざるを得ない。
そこでさらに、原告が右保証債務の引受をなした昭和四一年一二月三一日当時において訴外養魚会社の営業状態がどのような状況にあったかなどについて以下考察することとする。
(一) いずれも成立に争いのない甲第二号証、乙第二号証、乙第七号証の一ないし四、乙第八号証の一ないし四、乙第九号証の一ないし四、乙第一四号証の一ないし四、乙第一五、第一六号証、証人田妻喜代人、同秋本勉の各証言及び原告代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
(1) 昭和四〇年ころ国が漁業における構造改善事業の一環として漁業協同組合に補助金を出すなどして養殖、養魚を奨励していたことから、原告会社代表者である中道秋夫、薬局店を営む訴外田妻喜代人ら七名はこれに着目して、従前の取る漁業から作る漁業へといった将来の希望的展望の下に、瀬戸内海能美島等でハマチを中心とする養殖養魚と併わせて観光の事業を営むことを目論み、昭和四〇年五月一〇日、資本金五〇〇万円(中道ら四名各一二五万円宛出資)で右事業を目的とする訴外養魚会社(取締役三名、監査役一名)を設立し、中道はその取締役となり主に金融面の常務に従事することとした。
そして、訴外養魚会社は初年度(自昭和四〇年五月一〇日至昭和四一年四月三〇日)において中道ら取締役その他計四名の個人保証で呉相互銀行から約七〇〇万円を借入れ、国・県などの補助で内能美漁業協同組合が建設所有する冷蔵庫を有料ではあるが養魚の餌保管に使用することとし、当初は毎年五月ころ、当時盛んにハマチの養殖が行なわれていた四国地方からハマチの稚魚を仕入れていけすで成長させ秋から年末にかけて出荷するという段取りであったが、昭和四〇年はハマチの稚魚が購入出来ず、宇和島からタイ、ハゲなどを仕入れて右事業を始めるに至った。
(2) ところで、訴外養魚会社の初年度における営業状態は、営業当初であって、瀬戸内海沿岸では当時ハマチの養殖はなされておらず、中道らも養殖、養魚の経験がないうえ、知識も十分でなく、海水状況も予期した程良好でなかったことなどで、養魚の売上収入の外バンガロー収入等副収入を含めても売上総利益は三七万六、六二七円にとどまり、所期の営業で年間ほぼ恒常的に予想される約四〇〇万円程度の販売費一般管理費等諸経費の額にはるかに及ばず、営業外損益を加減して、結局、四四六万七、五八八円の当期損失となった。
(3) そして、翌事業年度(自昭和四一年五月一日至昭和四二年四月三〇日)における営業状態についてであるが、昭和四一年夏ころ稚魚を仕入れ養殖中のハマチが同年九月終りころから一〇月はじめころにかけ附近採石場の排土の流出その他による海水の汚染、また赤潮の発生などで大量に死亡し、そのうえ、その夏附近絵の島で行なった海水浴客相手の鯛釣りも台風でいけすが流されたりして、昭和四一年度売上純利益も八七万六、六七七円にとどまり、営業外損益を加減して結局三七九万二、九一二円の当期損失(累積欠損金八二六万〇、五〇〇円)となり、訴外養魚会社の借入金も一、一五〇万円にふくらんだ。そして、右赤潮などによるハマチの大量死は当初予期せぬ大きな痛手であったが、当時その原因も十分判明しないうえ、一応原因の一つと考えられる工場などの排水排土による水質の汚染悪化についても、それに対処する適確な方法を見出し得ない状況で、少なくとも昭和四一年暮ころには訴外養魚会社の事業経営の先行きはきわめて不安な状態となっていた。なお、前記貸付金一五〇万円も、もともと中道が訴外養魚会社の呉相互銀行からの借入金についてしていた保証債務を昭和四一年中に弁済した求償債権を貸付金としたものであって、そのころからすでに主債務者たる訴外養魚会社は借入金の返済にも困難を来たすに至っていたものとみられる。
(4) そしてなお、翌々年の昭和四二年度(自昭和四二年五月一日至昭和四三年四月三〇日)における営業状態は、魚種を変えてメバル等の稚魚を前年度の二割にも満たないわずか二九万二、〇〇八円分仕入れて、養殖のぼか魚のブローカーのような仕事もしたが、売上純利益は一四八万三、九二〇円となったものの、結局当期も二六一万二、三六六円の損失となり、累積欠損金は一、〇八七万二、八六六円にのぼり、昭和四三年には事実上倒産した。訴外養魚会社の借入金につき中道とともに個人保証していた訴外田妻喜代人は銀行から督促を受けその後財産を差押えられるに至った。
(5) 原告は不動産の売買等の業務を目的として昭和三七年八月二八日設立された有限会社で、資本の総額は五〇〇万円、内出資額は中道秋夫が四八〇万円、中道モモヨが二〇万円であり、取締役は中道秋夫一人である。
以上の事実が認められ、証人田妻喜代人及び同秋本勉の各証言並びに原告代表者本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし措信しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
(二) 以上認定した事実からすると、たしかに訴外養魚会社の目的とする事業は魚業における新しい方向として当時一般に有望視されていたもので、魚業協同組合の冷蔵庫を利用できるなどの周囲の協力的状況もあったが、しかし、瀬戸内海沿岸地域では初めての試みであったため未経験、知識の乏しさなどからする不安定要素も少なくないものであったところ、初年度の大巾な欠損に引続き、昭和四一年には、海水の汚染、特に赤潮の発生によるハマチの大量死亡という予期せぬ事態に直面して同様大巾な欠損となり、しかも、右赤潮などの原因及び対策については確たる見込みもつかない状況であったことなどからして、訴外養魚会社の経理関係の取締役をしていた中道としても、昭和四一年末ころにはすでに同社の先行きに強い不安を抱き、同社が無資力となって自己の保証債務の履行を余儀なくされかつその求償権の行使も不能もしくは著しく困難となる危険を十分予測していたものと認められる。
なお、成立に争いのない甲第三号証によれば、本件保証債務引受と同時になした貸付金譲受について、被告が当時においては不良債権ではなかったと認め、本件保証債務と異なる判断をなしたような事実がうかがわれるが、被告が不良債権ではないと判断した根拠も明らかでないうえ、いずれにしてもこれをもって前認定を左右するものではない。
3 そうすると、結局、中道は前認定の状況から昭和四一年一二月三一日当時すでに経済的にはほぼ主債務者の立場と同視し得る程度に究極的負担を余儀なくされることの予測される保証債務を同族会社である原告に無償で引受けさせて、原告の負担において中道の保証債務代払、求償債権貸倒れによる経済的損失を免れるという利益を得たものであって、このような本件保証債務引受は、原告の中道に対する「経済的利益」の付与とみられ、しかも、これは原告会社の役員たる中道に臨時的に支給した給与であって賞与と認められる(法人税法三五条四項、なお賞与としての意思の点は後述)。そして、会社役員賞与は法人の所得計算上利益処分であって、損金の額に算入すべきものではないから(同法三五条一項)、したがって、原告の保証債務代払同求償債権貸倒れ金相当額を右賞与と認定して損金算入を否認し、申告所得金額に加算すべきものとして処理した被告の措置にはなんら違法は存しない。
4 なお原告は、仮に賞与と認め課税するとしても、その時期は本件保証債務を無償で引受けた昭和四一年一二月三一日の属する昭和四一事業年度分とすべきである旨主張する。
しかし、税法上所得金額の算定にあたっての帰属年度の決定は、損金あるいは益金となるべき事実関係が単に生じたというにとどまらず、一定の経済的利益の変動が金額・安定性等の面で課税適状にあるとみられる程度に「確定」した段階に至った時期によるべきものと解されるところ、本件保証債務引受については、原告から中道への一定額での経済的利益の付与(賞与)として「確定」するに至った時期、つまり、原告の右代払(昭和四四年三月二七日)後にその求償債権も貸倒れ(債権放棄)として処理されるに至った時期(同年一二月三一日)の属する年度(昭和四四本件事業年度分)の所得として算定すべきもので、この点の被告の措置にはなんら誤りはない。
したがって、原告の右主張も理由がない。
四 以上検討してきたとおり、被告がなした本件(一)の処分は実体的にも違法なところはなく、結局、右処分は正当なものといえる。
第二本件(二)の処分について
一 被告が原告に対し、原告主張のとおり昭和四四年一二月分の源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分(本件(二)の処分)をなしたこと、右は、被告が原告の計上した本件保証債務引受についての貸倒損金を否認し、これを原告代表者中道に対する賞与として認定したことによるものであること及び原告が右処分につき異議申立及び審査請求をなし、いずれも棄却されたことは当事者間に争いがない。
二 そこで、本件(二)の処分の適法性について検討するに、この点はすでに前説示のとおりで、原告が本件保証債務引受につきこれを後貸倒れ損金(一一一万〇、六〇〇円)として処理した点は、原告代表者中道に対する賞与と認定すべきものであり、したがって、原告は右賞与支払者として所得税法六条、一八三条、一八六条により右所得税を源泉徴収して納付すべき義務を負うことになり、また、これを怠った本件においては国税通則法六七条により不納付加算税をも納付すべきこととなる。
なお、原告は法人税法三五条四項の賞与というためには賞与として支給する意思が必要であると主張するが、同条の文理上からはそのように解すべき根拠はないうえ、もし右意思を必要とするとなると臨時的な経済的利益附与者の恣意を許すこととともなって、画一的であるべき課税上も適当でなく、賞与かどうかは経済的利益附与の客観的性格によって判断すれば足るものというべく、右意思を格別必要とするものではないというべきである。
また、原告は仮に賞与と認めるとしてもその支払時期は本件保証債務の引受がなされた昭和四一年一二月とすべきであると主張するが、前記第一、三、4で説示したように昭和四四年一二月に支給したものと認めるのが相当であるから、原告の右主張も採用し難い。
三 以上によれば、被告のなした本件(二)の処分にも原告主張のような違法はなく、同処分も正当なものといえる。
第三結論
以上の次第で、結局、原告の本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渡辺伸平 裁判官 三浦宏一 裁判官 永松健幹)
別表(一)
〈省略〉
※ 6の法人税額は(3の税額+4の税額)-5の税額
但し100円未満切捨
※ 7の過少申告加算税は(6の税額-1の税額、但し100円未満切捨)×5/100
別表(二)
〈省略〉
別表(三)
〈省略〉
〈省略〉
〈省略〉